お知らせ NEWS
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2022.06.13(月)
第25回メディア資料研究会は「博物館展示におけるエゴ・ドキュメントの可能性」と題して、福井優さん、唐鈺さん、佐々木梓さんのお三方にご発表いただきました。
現在、国際平和ミュージアムでは2023年秋の常設展示リニューアルに向けた展示資料の検討会を重ねております。今回のメディア資料研究会では、従来の常設展示では十全に扱われてこなかったエゴ・ドキュメント(さしあたり日記や回想記など一人称で書かれた資料群を指す)について、その現代的な可能性や課題を具体的な事例を持ち寄りながら検討を行いました。
第一報告である福井優さんの「「普通の人びと」が見た満洲事変──エゴ・ドキュメント研究の視座から」は、満洲事変直後に書かれた様々なエゴ・ドキュメント資料から、満洲事変という出来事が、大衆や農民、知識人など当時の日本社会に生きた「普通の人びと」のなかでどのように受け止められていたのかを明らかにする報告でした。エゴ・ドキュメントには、ある個人が日常生活のなかで出来事を受容していく際の「思いや感情」「小さな選択」が記されており、福井さんはそれらが見る者に開示されることで、来館者自身も現代を構成する主体であることが意識化されるのではないかと、展示上でのエゴ・ドキュメントの可能性について論じられました。
第二報告の唐鈺さんの「十五年戦争中国側の日記資料──その利点と欠点」は、十五年戦争期に中国の人びとが記した日記資料を用いて、その魅力と課題について報告されました。1990年代以降中国でも注目されている日記資料は、来館者に対して当時の人びとの体験への「共感」や「驚き」をもたらす魅力的な資料である一方で、当時それらを書き残すことができた人びとには上層階級者が多く、女性が書いたものも少ないなど、その「代表性」が限定されている点には留意が必要だと論じられました。また現在の中国では、当時書き残すことができなかった人も含めて、当事者に対するインタビューや回想資料が重視される傾向があることなども紹介されました。
第三報告の佐々木梓さんの「昭和期におけるアイヌの人々のエゴ・ドキュメントに関する調査報告──戦時下に焦点を当てて」は、アイヌの人びとが同時代に書いた資料や戦後の回想資料、さらには聞き取り資料など、それぞれの資料が有する特質などにも着目された報告でした(たとえば「話し言葉」か「書き言葉」かなど)。佐々木さんは、アイヌの人びとのエゴ・ドキュメントには個々人が抱いていた「民族意識」などにも差異がみられ、「特定の発言」だけを取り上げて全体を典型化しえないこと、ただそれでもなおそこには共通する同時代の戦争や皇民化政策などの影響を見出すことができることなどを強調されました。
最後に細谷亨副館長より、エゴ・ドキュメントの研究史上の位置づけや、博物館展示としての展望についてご報告いただき、それぞれの報告者に対するコメントがなされました。全体討論のなかでは、とりわけエゴ・ドキュメントの社会階層性をめぐって下層の女性や子どものなかにも「書く」という行為が広く共有されていた可能性があることや、またそれぞれの個人の「言葉」がどのような「生存」をめぐる基盤との対峙や歴史的文脈のなかで生まれ出たものであるのかを併せて明らかにしていく必要性などが議論されました。
第25回メディア資料研究会
「博物館展示におけるエゴ・ドキュメントの可能性」
日時:2022年6月3日(金)17:00~19:20
会場:オンライン(zoom)
発表者:福井優さん(立命館大学大学院文学研究科博士課程後期)
唐鈺さん(立命館大学大学院文学研究科博士課程後期)
佐々木梓さん(立命館大学大学院文学研究科博士課程前期)
コメンテーター:細谷亨先生(立命館大学国際平和ミュージアム副館長)
参加者:12名