お知らせ NEWS
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2021.12.21(火)
第21回メディア資料研究会では、京都大学人文科学研究所助教(近現代台湾史)の都留俊太郎氏をお招きし、植民地支配責任という観点からみた当館所蔵の台湾関連資料の特徴や課題について、近年の台湾史研究の動向とともにご報告いただきました。
都留氏は、近年の学界の成果を紹介しながら、植民地支配責任を論じる前提として通説にしばしばみられる「五つの罠」に陥らないことが重要だと提起されました。
第一が、「近代化論の罠」です。従来のマルクス主義が強調してきた収奪論を批判するかたちで現れた植民地近代化論は、日本統治期の台湾でもインフラ整備や衛生改善、学校設置などの「近代化」が進んだと評価するものです。都留氏は、そのような「近代化」もまた「植民地戦争」という暴力的契機を抜きにしては語りえないということを強調されました。その点、当館所蔵資料の「台湾土匪討伐日誌」(1896年)は、台湾植民地化にともなって日本軍が抗日武力勢力に行った生々しい記録としても貴重だとのことでした。
第二は、「単純強制論の罠」です。たとえばアジア・太平洋戦争期の台湾では、労務動員や軍事動員というかたちで多くの人びとが戦争に動員されました。ただし今日注意すべき点として、たとえば当時の台湾での「血書志願」の流行にみるように、単純に「強制性」だけでは説明がつかない経験をどのように理解するかという問題があると、都留氏はいいます。このような台湾の人びとのなかでも日本統治期に戦争に積極的に「参加」したという経験は、戦後国民党独裁政権下のもとで語ることを許されなかった経験でもあるだけに、今日丁寧に聞き届ける必要があると強調されました。
第三は、「戦後無視の罠」です。都留氏は、植民地支配責任の対象範囲は1945年まででよいのかと問い、戦後、台湾人が民主主義を探求したり自治を行うことが、台湾でも中国大陸でも許されなかった歴史を、いま一度日本からも考えなおす必要があるのではないかと提起されました。たとえば当館所蔵資料のなかでも、228事件後に大陸に亡命した謝雪紅の「同胞に告ぐの書」(1947年)などは、戦後の台湾が抱え込まざるを得なかった日中台関係の複雑さを示唆する資料として重要だとのことでした。
第四は、「戦時期を極端に重視することの罠」です。都留氏は、これまで戦争責任の観点から、台湾史のなかでも「戦時期」の支配がとくに着目されてきたが、たとえば砂糖産業における支配など、「平時」の支配もまた同じく捉えなおされる必要があると主張されました。近年の研究では、よく知られている霧社事件をめぐっても、「事件」の前後に脈々と続いていた「平時」の支配の位相から改めて捉えなおされつつあるとのことでした(「味方蕃」、生き延びた女性たちの経験など)。
第五は、「抵抗についてその激しさを基準とすることの罠」です。植民地支配責任を考える際に、しばしば霧社事件のような激しい抵抗運動ばかりが注目される一方で、台湾議会設置請願運動のような静かな抵抗が充分顧みられていない問題性を都留氏は指摘されました。台湾における抵抗や暴力の深度は、外形的な「激しさ」からだけでは推し量ることはできないとのご提起でした。
最後に都留氏は、植民地支配責任を考えていくうえでも、日本史にとっての台湾史という関心の持ち方を超えて、台湾人の植民地経験への想像力を鍛えなおしていく必要があると強調されました。
第21回メディア資料研究会
「台湾史探求の落とし穴:植民地支配責任を考える前に」
日時:2021年12月8日(水)17:00~18:40
会場:オンライン(Zoom)
発表:都留俊太郎(京都大学人文科学研究所助教)
参加者:32名