お知らせ NEWS
お知らせ NEWS
2021.02.19(金)
今回のメディア資料研究会「国際平和ミュージアム所蔵資料を用いた本学学生による卒業研究報告」では、立命館大学映像学部4回生の根岸明日風さんと奥津寅太郎さんが報告を行いました。
根岸さんは3年間学生ミュージアムスタッフとして活動し、当館の国際平和メディア資料室で資料整理や展示補助、映像の制作などに携わってきました。今回の卒業研究では、当館収蔵資料を含め1930年代から40年代に発行された『週刊朝日』と『主婦之友』の表紙に掲載された女性像を分析しました。『週刊朝日』の表紙では、「健康で豊満な母」のイメージを持つ日本人女性と「エロティシズム」のイメージを持つ欧米人風日本人女性の二つのイメージが混在していましたが、1930年代後半に入ると、両者が明確に描き分けられるようになりました。こうした「顔」には、国民イメージがあらわれますが、1939年には中国文化の表現が加わって女性像は複雑化し、「日本」「欧米」「中国」の要素を備えた新しい東アジアを表す女性イメージが打ち出されようとしていたことがわかりました。
質疑応答では、週刊誌の編集方針の影響や、表紙を飾った女優たちが身を置いていた映画界の動向など、メディア間のイメージ流通についての今後の検討の可能性などの指摘がありました。
「AR型ミュージアム展示システムの研究を踏まえた次世代型ミュージアム展示の可能性」では、奥津さんが、昨今発展が著しいAR(Augmented Reality:拡張現実)型ミュージアム展示の技術を紹介し、卒業制作のAR型装置について報告しました。この装置は、当館地階展示室にある「戦火の中の母と子」を題材とし、その前に設置した半透過スクリーンに解説や写真などの情報を投影するものです。装置の前で腕を振るなどの動作によって接触せずに操作できるジェスチャーインターフェースを用いており、大きな半透過スクリーンは遠くからも見えるため、複数の見学者による鑑賞を可能にします。スクリーンが半透過のため、投影される情報とスクリーンの向こうの「戦火の中の母と子」(防空頭巾等の防空服装をしたマネキン)も一緒に見ることができます。スクリーンに映し出される情報レイヤーには深度があり、「防空頭巾」という対象資料の名前や詳しい説明、全体の画像と、より細かい説明を手繰っていける仕組みになっています。今回は、この装置を展示室内で実演した映像による紹介でしたが、参加者は、博物館におけるデジタル展示の可能性を感じました。タブレットによる解説提供などデジタル版教科書のような仕掛けと異なり、資料を前にし、複数の人々が鑑賞するという博物館本来の展示を発展させる方向性に、デジタル技術を取り入れた新しい鑑賞方法の展開の可能性を示唆する報告でした。
今回の報告者はともに映像学部4回生であり、それぞれ卒業論文と卒業制作をもとにした報告でした。資料整理とAR型展示システムと、アプローチは異なりますが、学生たちは当館を舞台に資料や展示への学びと研究を深めており、こうした中から新しい博物館の形が作られていくことを感じられる研究会となりました。
第20回メディア資料研究会
報告 「国際平和ミュージアム所蔵資料を用いた本学学生による卒業研究報告」
日時 2021年2月10日(水) 17:00-18:30
報告者 根岸明日風(映像学部4回生・国際平和ミュージアム学生スタッフ)
奥津寅太郎(映像学部4回生)
参加人数 23名