お知らせ NEWS
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2020.10.03(土)
昭和初期、戦争に関わる柄の着物が作られていました。現在からみれば奇抜なデザインと強烈なプロパガンダメッセージは見る者に強い印象を残します。2010年代から書籍や展覧会、テレビ番組などで取り上げられ、一般にも広く知られるようになりました。
今回のメディア資料研究会では、本来であれば開催中のミニ企画展示「昭和初期の和服柄に宿る戦争」の関連企画として閲覧しながら実施されるものでしたが、COVID-19 のため展覧会は延期され、研究会も初めてのオンライン開催となりました。
報告者の大髙幸氏は、アメリカで開催されたWearing Propagandaと題した展覧会に携わった実績もあり、今回のミニ企画展示も主催の予定でした。本報告は、この内容を通して、和服柄における戦争のシンボルを考察するものです。報告では、江戸期からの「意気地」を底流に、明治期に近代日本の戦争柄が登場し、伝統的な武士の吉祥柄や軍のシンボル、国民的英雄とされた兵士のモチーフなどが盛り込まれていく様が、着物の画像と当時そうしたモチーフが載せられていた日用品などとともに紹介されました。戦争柄には、伝統柄と見分けにくいものもありますが、満州事変以降は柄の中に新聞の号外や、爆撃機など、あからさまなモチーフが増えました。報告は、こうしたシンボルを同時代の他のイメージとの関連の中で読み取ることの重要性と、それらが持つ多義性を指摘し、当時の受け手がそれらをどう受容していたかが、今後の研究課題であることを指摘しました。
続く木立雅朗氏のコメントは、京都に残された友禅染図案や絵刷りの中にみられる戦争柄を紹介するとともに、残された図案全体の中では戦争柄は少なく、京都の伝統とはみなされず、新時代の顧客開拓の取り組みの一環であったことなど、産地の側からの戦争柄の意味合いを明らかにされました。また、材質や技法などで価値や価格は異なり(中には廉価なコピー品もあり)、生産から流通全体の中での戦争柄の位置づけと、消費者にとっての意味合いまで含めたより広範な文脈の中での戦争柄の研究が必要であることが指摘されました。
続く質疑応答では、生産から消費までを文書資料の中で裏付けることの重要性や、着た人々の体験を紐解くため当時の証言を集めることなどの必要性についても議論が及びました。
「戦争柄の着物」というモノ資料を、生産から消費まで多様に絡まりあう文脈の中に置くことで、私たちの生活と近代と戦争についての理解が深まることを示唆する充実した研究会となり、戦争柄の着物を所蔵する当館にとっても今後の課題となりました。
第17回メディア資料研究会
報告 「昭和初期の和服柄に宿る戦争を展覧会を通して考える」
日時 2020年9月10日(木) 15:00-17:00
報告者 大髙幸(放送大学客員准教授)
コメンテーター 木立雅朗(立命館大学文学部教授)
参加人数 21名