立命館大学国際平和ミュージアム 平和教育研究センター Peace Education and Research Institute, Kyoto Museum for World Peace, Ritsumeikan University

お知らせ NEWS

2019年8月24日(土)・ 8月31日(土)、「2019年度8月土曜講座」を開催しました。

2019.10.04(金)

<8月土曜講座実施報告>

 統一テーマ:戦争の歴史に学び、戦争のいまを怖れる

 

8月24日(土)
テーマ:満蒙開拓団の歴史は問いかける
     -戦後日本社会と地域-
講 師:細谷 亨(経済学部准教授)
参加者数:154名

 2006年に「中国残留孤児」による国家賠償請求訴訟に原告が勝訴しました。これを受けて、2007年には、「改正中国残留邦人支援法」が成立し、政府による残留孤児支援政策の見直しが行なわれました。本講座では、こうした残留孤児問題の起源は、1930年代に開始された満洲移民政策(満蒙開拓団)にある点を前提としつつ、満蒙開拓団送出の背景と特質、敗戦・「引揚げ」と開拓民の戦後、満蒙開拓団を考えることの現代的意味についてお話をいただきました。
 満蒙開拓団送出については、大きく二つの背景がありました。一つは、1930年の昭和恐慌を背景とする農村の経済的疲弊の打開策として移民政策が立案されたことです。もう一つは、1931年の満洲事変、1932年の「満洲国」建国という日本帝国の大陸進出の動向のなかで、対ソ防衛や満洲支配の安定化のために日本人農民の定住が求められたことです。また、1936年の国策化以降は、政府は農村に巨額の補助金を交付し、全国各地の農村では「分村計画」を立て農民の送出に協力をすることとなりました。しかし、国内では十分な移民を集めることができませんでした。それに加えて、現地の受け入れ体制の不備もあり、入植した移民は困難な生活を強いられることになりました。国策として行なわれた分村移民は失敗したのです。
 1945年8月9日のソ連軍の満洲侵攻時を機に、開拓団の崩壊が始まりました。約27万人いた移民のうち5万人の成人男子が関東軍に召集され、老人・女性・子ども・障がい者が残されましたが、多くは逃避行と集団自決・「難民」化の道をたどりました。開拓民の犠牲者は約8万人、中国残留孤児・残留婦人は約1万4,000人でした。日本への引揚者と戦後日本社会の関係は、「排除と包摂」の二つの局面のなかで展開しました。過剰人口・食料問題のなかで引揚者は偏見・差別を受けることもありましたが(排除の局面)、分村移民を送り出した農村では、「送出者の責任」を掲げて引揚者救済に当たったケースもみられました(包摂の局面)。後者の具体例としては、生活保護給付の対象に引揚者を積極的に組み込んでいったこと、農地改革の過程で「不在地主」としての引揚者の農地を強制買収の対象から除外することなど、地域社会における政策的配慮が大きかったといえます。
 そして最後に、満蒙開拓団を考える現代的意味として、「国策」による過ちと情報の大切さ、犠牲をもたらした「責任」と歴史を継承することの重要性について指摘がありました。特に国策として満蒙開拓団を進めたにも関わらず政府は責任を回避し、現在も公式には認めていないのは問題であり、現在、地域・自治体が担っている中国残留孤児・二世とその家族の生活支援に政府が積極的に取り組まなければならないこと、高校生による紙芝居製作や「語り部」としての活動など「戦争を知らない世代」による歴史の継承が始まっており、それが新たな「地域づくり」へと結びついていることも注目すべき動向である、と総括がなされました。

 

 

 

8月31日(土)
テーマ:『核ミサイル防衛』の復活と日本の針路 
    ―『世界終末時計2分前』のリアル―
講 師:藤岡 惇(立命館大学名誉教授)
参加者数:163名

 すべての学問は「好奇心」から生まれたといわれますが、例外が一つあります。平和学だけは「恐怖心」から生まれたからです。
 米国の科学者たちは毎年末に、地球滅亡までの時間を表す「終末時計」を発表しています。冷戦ピーク時の1957年には、「2分前」というレベルに落ち込みました。1991年には「17分前」に戻されたのですが、2017年・2018年と、「2分前」という最悪レベルに再び、落ち込んだのを御存知ですか。
 なぜそうなったのでしょうか。宇宙軍の創設を背景にして、「核ミサイル防衛」という野心的な目標を30年ぶりにトランプ政権が追求しだしたことと関係があると私は睨んでいます。ロシア・中国・北朝鮮を相手にして、仮に核戦争が始まっても、宇宙(衛星)軍と前線国家のあいだに「核の盾」を築いておけば、米国の中枢部は生き残ることができる、そうすると核戦争を管理し、有利な条件下で休戦に持ち込めると、トランプさんは考えている節があります。しかしそんなにうまく進むのでしょうか。
 3度目の核戦争は、宇宙戦争、サイバー攻撃・原発攻撃を伴うかたちで進むことでしょう。いま日本のような「前線国」が「改憲」を行い、核ミサイル防衛に全面的に組み込まれると、どうなるのか。
 ありそうなシナリオは次のようなものです。米国と中ロの間のチキンレースの挙句に、限定的な核交戦が日本上空で始まります。「核の闇」が日本列島を襲い、電源喪失から原発の爆発に至ります。あまりの惨状に正気を取り戻した米国と中ロが、この時点で、核停戦に応じるが、前線国だけが無人の地となり、日本から避難民が風上の朝鮮半島・中国奥地の方向へと逃げていく。これは最悪の未来図ですね。
 どうしたらよいのか。北朝鮮の願いにこたえて「朝鮮戦争の終結」に応じること。核ミサイル防衛という危険なしくみから、日本は抜け出すこと。日本と朝鮮半島2国、あるいはモンゴルとで、この地帯は、中距離核ミサイルを配備しない「中立地帯」だと宣言し、どうしても核大国が核交戦をしたいのならば、われわれを巻き込まずに、やってくださいという奇策もありかなという気がします。とはいえ大規模な核交戦が生じたばあい、局外者もゆっくりと死に絶えていく可能性が高い。そうすると、来るべき宇宙核戦争を阻止し、核兵器の廃絶に至る方向に歩むほかないというのが、本日の私の結論です。

 

 

     

     ▲8/24講座の様子               ▲8/24講座の様子              ▲8/31中本副館長挨拶

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